働いている最中にケガをしたり病気になってしまうことはありうることです。そのようなときにサポートする制度として、「労働災害(の認定)」があります。
この「労働災害」の基本と考え方、その補償内容について解説していきます。
労働災害とは
労働災害とは、「労働者が業務にあたっていたり、また業務に従事すべく通勤(退勤を含む)したりしているときに起きた事故や病気、障害や死亡のこと」をいう言葉です。略称として「労災」がありますが、ここでは「労働災害」として記していきます。
なお、労働災害であると認められたり、その結果としてお金が支払われたりすることを、「労災が認められた」「労災がおりた」などのように言うこともよくあります。
労働災害は、大きく下記の2つに分けられます。
・業務災害
「業務災害」のほうは、おそらく多くの人にとってイメージがしやすいものでしょう。
たとえば、正しい手順で仕事をしていたにもかかわらず、業務中にケガをしてしまった場合などです。また、「高所から転落した」「重い物を持ち上げようとして、急な負担がかかって腰を痛めた」などのようなケースです。
ただし、「労働者側に著しい過失があった」と認定された場合、過失相殺となり、支払われる金額は大きく減少されます。
たとえば、「きちんと命綱をつけて作業するようにと書類を交付しており、実際に命綱を支給していたにもかかわらず、労働者側が命綱をつけずに作業してケガをした」という事案で、労働者側に6割の過失があると判断されました。
・通勤災害
労働災害は、「通勤中(退勤中を含む)に起きた事故やケガ」であっても認められるケースがあるといえます。
「住居から会社、会社から住居に向かうときに、一般的・合理的と考えられる交通手段で移動していた場合に起きた事故やケガ」に対してお金が支払われるというものです。なお、「本来は休日であったけれど、緊急の呼び出しがあって職場に向かう途中で事故にあった場合」なども労働災害として認められます。また、「帰路にあるコンビニに5分程度寄って買い物をした」「独身者だが、いつものルートで出勤途中に立ち食いソバを食べて、その後で事故にあった」などのケースも、労働災害として認められることが多いといえます。
ただし、「帰宅最中に、大幅にルートを外れて買い物に行った」「帰宅途中に居酒屋に寄って数時間飲食をした後に帰路につき、その最中で事故にあった」などのような場合は認められないことが多いといえます。
労働災害は、ケガだけではなく病気も対象
上では主に「ケガ」のことを取り上げましたが、「病気」でも労働災害と認められることがあります。
たとえば、石綿(アスベスト)による疾病を患った人に対して労働災害が認められた……という話を聞いたことのある人もいるのではないでしょうか。
また、「仕事を原因として患った精神障害」も労働災害とされることがあります。
精神障害や精神の病気は、医師の診断内容によるところも大きく、個々のケースで慎重に判断していかなければなりません。精神の病気は、仕事によってのみ引き起こされるのではなく、私生活を原因として引き起こされることもあるからです。また、その原因を断定しにくいという問題もあります。
ただ、「周囲から見ても、明らかにおかしい量の仕事を理不尽に押し付けられていた」「人格否定を伴うような激しい罵詈雑言を、日常的に浴びせられていた」「性的なからかいや直接的な誘いがあり、それを断ったことを理由として不利益な扱いをされた」などのような場合は労働災害であるとされるケースが多いかと思われます。
「心」は目に見えないものです。なかには労働者側の訴えに理解を示して真摯に対応する企業もありますが、そのような企業ばかりではないのが現状です。精神障害・精神の病気を労働災害として認めさせる場合は、医師の診断はもとより、必要に応じて弁護士の力を借りる必要も出てきます。
労働災害と認められた場合の補償内容
では、「これは労働災害である」と認められた場合は、どのような補償を受けられるのでしょうか。それについてみていきましょう。
まず大前提として、「療養補償給付」(療養給付)が受けられます。これは、いわゆる「治療費」と考えてください。労働災害であると認められれば、治療費用の全額が支払われ、自己で負担する必要はありません。
それ以外にも、下記のような補償を受けられます。なお下記の一部は、社会復帰促進事業のひとつである「特別支給金」の対象となることもあります。これは、労働災害の保険給付にプラスして(上乗せして)支払われるものです。
・休業補償(休業補償給付)
業務中に生じた災害が原因の場合は、「休業補償給付」、通勤中に起きたものは「休業補償」といいます。労働災害によって仕事ができなくなったときに支払われるもので、賃金が受け取れないときに支払われます。休業4日目から、1日あたり給付基礎日額の6割相当が支払われます。なお、特別支給金の場合は、1日あたり2割が加算されます。
・障害補償(補償給付)
労働災害によって障害を受けたときに支払われるものです。障害の程度によって、1~7級までと、8~14級までに分けられます。8~14級の場合は、一時金として56~503日分の一時金が支払われます。1~7級の場合は、131~313日分の年金が支払われます。また特別支給金の対象にもなります。
・介護保障(補償給付)
第1級もしくは第2級(条件あり)であり、現在介護を受けているときに支払われます。上限は10万4,290円です。
・遺族補償(補償給付)
労働災害によって労働者が死亡した場合に支払われます。遺族の人数に応じて金額が変わり、遺族年金と遺族補償一時金があります。また、特別給付金の対象ともなります。
・葬祭料(葬祭給付)
労働災害によって労働者が死亡したとき、葬祭費用として出されるものです。基本的には、31万5,000円に対して、給付基礎日額の30日分をプラスした金額となります。
・傷病年金(補償年金)
「労働災害を負ってから1年6か月以上経った後に、まだ傷病が治っていない、あるいは残った障害が傷病等級にあたる」と判断された場合に支給されます。障害の程度によって支給額が異なりますが、245~313日分の金額(給付基礎日額から求める)が支払われます。また、特別支給金の対象となります。
これ以外にも、二次健康診断などの給付(定期の健康診断で異常が見つかった場合、指導を受けられる)があります。
労働災害の認定は、労働者の権利です。
もちろん労働災害が起こらないことが一番望ましいのですが、起こった場合はそれ以降の生活を安定させるためにも、労働災害を認定してもらえるように動きましょう。