仕事中に起きる病気やケガは、条件を満たせば「業務災害」と認められます。認められた場合に受けられる補償について解説していきます。
業務災害、労働災害、通勤災害の違い
「労働中に起きた事故や病気は、治療費などが補償される」ということは、多くの人が知っている話です。ただ、このときに使われる単語のはっきりとした意味までは把握していない、という人も多いのではないでしょうか。
そこで、ここでは業務災害と混同されやすい言葉である「労働災害」と「通勤災害」を取り上げ、それぞれが「業務災害」とどう違うのかを説明していきます。
・労働災害との違い
「労働災害」は「労災」とも略されます。
労働災害には、「通勤災害(後述します)」と「業務災害」の2つが含まれます。つまり労働災害とは、通勤災害と業務災害の総称なのです。また、業務災害は労働災害の一部であると言い換えることもできます。
・通勤災害との違い
「業務災害」は、労働に従事しているときに起きたケガや病気を指すものであり、労働災害のうちの一部です。
これに対して通勤災害は、「労働に従事するために、現場(会社)に向かっている通勤途中に起きた事故やケガ」のことです。なお「通勤災害」としていますが、これは「自宅から現場(会社)に行くとき」だけでなく、「現場(会社)から自宅に帰るとき」にも適用されます。たとえば、帰り道にあるコンビニエンスストアなどに5分程度立ち寄って買い物をしてから自宅に戻る際中に事故にあった……などのようなケースでも、通勤災害と認定されます。
ただし、「帰路を大幅に外れて寄り道をしてから帰る際中の事故だった」「帰るときに居酒屋などで相当時間飲食をし、その後で帰路についた」などのような場合は、通勤災害とは認められません。
※なお、ここではわかりやすく「自宅―現場(会社)」としていますが、常識的な範囲での通勤方法であるのなら、出張先でも認定されます。
業務災害と認められるケースと、認められた場合の補償
ここからは、より詳しく「業務災害」についてみていきましょう。
・業務災害となるケース
業務災害と認められるケースは、個別の事例によって異なります。ただ、一般的にみて、下記のような状況ならば業務災害と認定される可能性が極めて高いと思われます。
例1:その業務に起因して引き起こされた病気(例:アスベスト・粉じんによる疾患など)
例2:定められた手順で作業をしていたにも関わらず、仕事の最中に高所から落下した
例3:マンホールの洗浄中、よそ見をしていた車にはねられた
例4:飲食店の厨房で働いていたときに、フライヤーから火が上がり火傷をした
例5:帰港途中の漁船が転覆した
職種によって危険度は異なりますが、どのような職種であっても業務災害だと認められる可能性はあります。
・認定された場合に受けられる補償
それでは、業務災害と実際に認められた場合はどのような補償を受けられるのでしょうか。
なお今回は「業務災害を取り上げる」という観点から、「業務災害」としていますが、実際には通勤災害によるものも、下記の補償を受けられます。
1.療養(補償)給付
業務災害と認められた場合、そのケガや病気の治療にかかる費用の自己負担はゼロとなります。
2.休業(補償)給付
業務災害によって休業を余儀なくされた場合に支払われるものです。満額が支払われるわけではなく、給付基礎額の60パーセントが支給されます。なお、受けられるのは4日目以降です。また、社会復帰促進事業のひとつである「特別支給金(以下は単純に「特別支給金」として記載)」の対象となり、この場合は、さらに20パーセントが支払われます。
3.障害(補償)給付
「治療をしたけれど、完治しなかった」ということで後遺症がもたらされた場合は、年金や一時金の支払い対象となります。後遺症の程度が重い障害等級1~7級は年金となり、最大で313日分が支払われます。障害等級8~14級は一時金が支払われることとなり、最大で503日分の補償が受けられます。これは特別支給金の対象です。
4.遺族(補償)給付
業務災害によって不幸にも労働者が死亡した場合、残された家族に対して遺族年金あるいは遺族補償一時金が支払われます。遺族の人数によって支払額は異なります。なお、これも特別支給金の対象です。
遺族年金は、「亡くなった人によって生計を維持していた(共稼ぎも含まれる)人がいた場合」を対象とします。遺族補償一時金は、「亡くなった人によって生計を維持していた人がいない場合」でも支給される可能性があります。
5.傷病(補償)年金
業務災害にあってから1年半を経過したにも関わらず症状が固定しない、あるいはその障害が傷病等級(1級から3級までがある)にあたるときに支払われるものです。特別支給金の対象ともなるものです。
これ以外にも、葬祭費用や傷病(補償)年金、また介護(補償)給付が支払われます。
業務災害とは認められないケース
業務災害と認められた場合、労働者の生活を守るためにさまざまな補償が行われます。
しかし、すべてのケースで「業務災害である」と認められるわけではありません。
例えば、以下のケースでは「業務災害とは認められない」とされる可能性が非常に高くなります。
1.故意に事故を発生させたり、いたずらや怨恨を理由として事故を発生させたりした
2.昼休みなどの休憩時間において、仕事とはまったく関係のない行為(同僚とバレーボールをしていて腰をひねったなど)によってケガを負った場合
3.原則として、天変地異による被害は業務災害として認められない。ただし、天変地異が起きたときに災害が起こりやすい環境などの場合は、業務災害として認められることもある
また、「たしかに業務上で起きた事故ではあるが、労働者に過失があった場合」は過失相殺が行われます。たとえば、「高所作業中は命綱をつけるように指導をし、マニュアルも渡し、その危険性を十分に周知していたにも関わらず、労働者が命綱をつけずに業務にあたった。その結果として、高所から落下した労働者がケガをした」などのようなケースです。
業務災害に限ったことではありませんが、それぞれのケースによって認定されるかどうかは変わってきます。ご不明点やご不満があれば、弁護士に相談してください。